初めての本格的な依頼制作

制作は雲を掴むようだった。

書壇を離れしばらくしてもう書道やめようかと思っていたころ、空手道場に掲げる書の依頼が来た。

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依頼の時点で紙の大きさや文字は決まっていなかったため、道場での作品の見え方を予想してこちらで大方のサイズを提案した。それだけでも初めてのこと。思えばこの時初めて空間というものを意識したのかもしれない。文字は知人である依頼者が決めた。その間にも先生が本を出版していたので読み、現役時代どんな選手だったかも調べた。

文字と大体の大きさが決まれば、あとは自分が書くだけ。しかしどの筆で書いたらいいのか分からない、墨は?

色々考え、書道道具屋さんとも相談しながら新たに筆を購入。墨磨り機はまだ持っていなかった。力強い表現には濃墨が良いだろう、しかし墨汁は駄目だろう。8時間近く磨って2枚半分くらいの墨にしかならず、限界を感じ、墨磨り機も購入した。

思うようなものは書けなかった。ジタバタしていた。こんな若造の書いたものなど、元世界チャンピオンの目に適うのだろうか。こわい。でも心の奥底ではやり遂げたかった。

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紙の大きさを決めたり、文字を考えてもらったりのさまざまなやり取りを含め、最初の依頼から1年近く経っていた。もうまずい。あれだけあった紙もあと数枚…というとき、今までにない感覚があった。書けたかもしれない。というか、今の自分にこれ以上はない、そんな感覚だった。

依頼者に見せ、依頼者はこれならと先生に見せた。どう話したのか知らないが、「合格!」と仰ったらしい。嬉しい。ついに!と思いきや、もう一つ、印をまだ押してなかった。位置や内容を先方と確認し、徹夜で彫った。さらに裏打ちに出してようやく、一連の制作が終わりを見せたのだった。

しかし本当に嬉しかったのは、後日送ってくれた道場の写真を見た時だった。思った以上に丁寧に、そして道場の中心に掲げていただいていた。制作の大変だったことなど、一瞬で吹き飛んだ。

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